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史記 「大丈夫当如此也」 現代語訳

1月 23, 2014 by kanbunjuku // コメントは受け付けていません。

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訳:蓬田(よもぎた)修一

<漢文>

史記
大丈夫当如此也

高祖、沛豊邑中陽里人。
姓劉氏、字季。
父曰太公、母曰劉媼。
其先、劉媼嘗息大沢之陂、夢与神遇。
是時、雷電晦冥。
太公往視、則見蛟竜於其上。
已而有身。
遂産高祖。

高祖為人、隆準而竜顔、美須髥、左股有七十二黒子。
仁而愛人喜施、意豁如也。
常有大度。
不事家人生産作業。
及壮、試為吏、為泗水亭長。
廷中吏、無所不狎侮。
好酒及色、常従王媼・武負貰酒。
酔臥、武負・王媼、見其上常有竜、怪之。
高祖毎酤留飲、酒讐数倍。
及見怪、歳竟、此両家常折券弃責。
高祖常繇咸陽。
縦観、観秦皇帝。
喟然太息曰、
「嗟乎、大丈夫当如此也。」
(高祖本紀)

<書き下し>

大丈夫当(まさ)に此(かく)の如(ごと)くなるべき

高祖は、沛(はい)の豊邑(ほういふ)の中陽里の人。
姓は劉(りう)氏、字(あざな)は季(き)。
父は太公と曰ひ、母は劉媼(あう)と曰ふ。
其の先、劉媼嘗(かつ)て大沢の陂(は)に息(いこ)ひ、夢に神と遇(あ)ふ。
是(こ)の時、雷電して晦冥(くわいめい)なり。
太公往(ゆ)きて視(み)れば、則ち蛟竜(かうりよう)を其の上に見る。
已(すで)にして身(みごもる)有り。
遂(つい)に高祖を産む。

高祖人と為(な)り、隆準(りゆうせつ)にして竜顔、須髥(しゆぜん)美(うるは)しく、左股(さこ)に七十二の黒子(ほくろ)有り。
仁にして人を愛し施(し)を喜(この)み、意豁如(くわつじよ)たり。
常に大度有り。
家人の生産作業を事とせず。
壮の及び、試みられて吏と為り、泗水(しすい)の亭長と為る。
廷中の吏をば、狎侮(かふぶ)せざる所無し。
酒及び色を好み、常に王媼・武負従ひて酒を貰(せい)す。
酔(ゑ)ひて臥すに、武負・王媼、其の上に常に竜有るを見て、之を怪しむ。
高祖酤(か)ひて留(とど)まり飲む毎(ごと)に、酒の讐(う)るること数倍す。
怪を見るに及び、歳(とし)の竟(を)はりに、此の両家常に券を折り責(さい)を弃(す)つ。
高祖常(かつ)て咸陽(かんやう)に繇(えう)す。
縦観(しようかん)して、秦の皇帝を観(み)る。
喟然(きぜん)として太息して曰はく、
「嗟乎(ああ)、大丈夫当に此くの如くなるべき。」と。

<現代語訳>

高祖は沛県豊邑中陽里の人である。
姓は劉氏、字(あざな)は季という。
父は太公、母は劉媼といった。
ずっと以前、劉媼が大きな沢の土手で休息していたとき、夢で神と出会った。
このとき、雷(かみなり)が鳴りいなずまが光り、あたりは真っ暗になった。
太公が行って見てみると、蛟竜(うろこがある竜)が劉媼の上にいるのが目に入った。
(母親は)ほどなく(高祖を)身ごもった。
そして高祖を生んだ。

高祖の人となりは、鼻筋が高く容貌は竜のようであり、顎ひげと頬ひげは美しく、左の股に七十二のほくろがあった。
(性格は)思いやりが深く、人を愛し、施しを喜び、こころはからっとしている。
いつも大きな度量を持っていた。
家の人がする生産作業は行わなかった。
三十歳になって、役人として用いられ、泗水の亭長となった。
(高祖は)役所の役人を、みな軽んじて侮った。
酒と女を好み、いつも王婆さんと武婆さんの店で酒をつけで買っていた。
酔って寝ると、武婆さんと王婆さんの目には、高祖の上にいつも竜が見え、これを不思議がった。
高祖が酒を買い留まって飲むごとに、酒の売上は数倍になった。
不思議な出来事(竜)を見たこともあり、歳の終わりには、このふたつの店ではいつも(酒代の)借金の取り立てをしなかった。
高祖はあるとき咸陽で労役に従事した。
自由に見学する機会があり、秦の始皇帝を見た。
ため息をついてこう言った。
「ああ、男子たるものあのようになければならない。」



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