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史記 「大風起兮雲飛揚」 現代語訳

1月 24, 2014 by kanbunjuku // コメントは受け付けていません。

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訳:蓬田(よもぎた)修一

<漢文>

史記

大風起兮雲飛揚

高祖還帰、過沛、留置酒沛宮、悉召故人・父老・子弟、縦酒。
発沛中児、得百二十人。
教之歌。
酒酣、高祖撃筑、自為歌詩曰、

大風起兮雲飛揚
威加海内兮帰故郷
安得猛士兮守四方

令児皆和習之。
高祖乃起舞、慷慨傷懐、泣数行下。
謂沛父兄曰、
「游子悲故郷。
吾雖都関中、万歳後、吾魂魄猶楽思沛。
且朕自沛公以誅暴逆、遂有天下。
其以沛為朕湯沐邑、復其民、世世無有所与。」

沛父兄・諸母・故人、日楽飲極驩、道旧故、為笑楽十余日。
高祖欲去。
沛父兄固請留高祖。
高祖曰、
「吾人衆多。
父兄不能給。」
乃去。
(高祖本紀)

<書き下し>

大風起こりて雲飛揚す

高祖還帰し、沛(はい)に過(よぎ)り、留(とど)まりて沛の宮に置酒し、悉(ことごと)く故人・父老・子弟を召して、酒を縦(ほしいまま)にせしむ。
沛中の児を発して、百二十人を得たり。
之をして歌はしむ。
酒酣(たけなは)にして、高祖筑(ちく)を撃ち、自ら歌詩を為(つく)りて曰はく、

大風起こりて雲飛揚す
威海内に加はりて故郷に帰る
安(いづ)くんぞ猛士を得て四方を守らしめんと

児をして皆之を和習せしむ。
高祖乃ち起(た)ちて舞ひ、慷慨(かうがい)傷懐して、泣(なみだ)数行下る。
沛の父兄に謂ひて曰はく、
「游子(いうし)故郷を悲しむ。
吾(われ)関中に都すと雖(いへど)も、万歳の後、吾(わ)が魂魄(こんぱく)猶(な)ほ沛を楽思(らくし)せん。
且つ朕(われ)沛公自(よ)り以て暴逆を誅(ちう)し、遂に天下を有(たも)てり。
其れ沛を以て朕(が)が湯沐(たうもく)の邑(いふ)と為し、其の民を復し、世世与(あづか)る所有る無からしめん。」と。

沛の父兄・諸母・故人、日に楽飲して驩(よろこ)びを極め、旧故を道(い)ひて、笑楽を為すこと十余日なり。
高祖去らんと欲す。
沛の父兄固く請ひて高祖を留めんとす。
高祖曰はく、
「吾が人衆(じんしゆう)多し。
父兄給すること能はざらん。」と。
乃ち去る。

<現代語訳>

高祖は帰還し、沛を訪れ、留まって沛宮で酒宴を張り、古い友人、老人、若者をことごとく呼んで、酒を思う存分飲んでもらった。
沛の子どもを呼び集め、その数は百二十人、(その子どもに)歌を歌わせた。
宴がたけなわになると、高祖は筑を撃ち、自ら歌をつくって歌った。

大風が起って、雲が飛揚する(ように私は立ち上がり)
(我が天子の)威厳は天下の上にあり、故郷に帰る
なんとしかて勇猛な兵士を得て、四方を守らせたいものだ

子どもにいっしょに声をあわせ歌を習わせた。
高祖は立ち上がって舞うと、感情が高ぶり、心が痛み、涙がはらはらと落ちた。
沛の長老たちに向かって言った。
「旅にある者は故郷を(懐かしみ)悲しむものだ。
わしは関中に都を置いているが、死後、わしの魂はやはり沛を慕い思うのだ。
しかも、わしは沛公(という低い身分)から起こり、暴逆の徒を打ち滅ぼし、ついに天下を有することになった。
沛を天子の直轄地とし、そこの人々の年貢や労役を免除し、代々それら(年貢や労役)とは関係ないようにする。」

沛の年寄りたち、婦人たち、昔なじみらは、連日、楽しく飲み喜びを極め、昔話をして、笑い楽しむこと十日あまりであった。
高祖はたち去ろうとした。
沛の年寄りたちは固くお願いして高祖を引き留めようとした。
高祖が言うには、
「わしの従者は人数が多い。
そなたたちでは飲食をまかなうことができまい。」
そして立ち去った。



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