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史記 「澠池之会」 現代語訳

5月 21, 2014 by kanbunjuku // コメントは受け付けていません。



訳:蓬田(よもぎた)修一

<漢文>

史記
澠池之会

秦伐趙、抜石城。
明年、復攻趙、殺二萬人。
秦王使使者告趙王、
「欲与王為好、会於西河外澠池。」
趙王畏秦、欲毋行。
廉頗・藺相如計曰、
「王不行、示趙弱且怯也。」
趙王遂行。
相如従。
廉頗送至境、与王訣曰、
「王行、度道里、会遇之礼畢還、不過三十日。
三十日不還、則請立太子為王、以絶秦望。」
王許之。
遂与秦王会澠池。

秦王飲酒酣曰、
「寡人窃聞趙王好音。
請奏瑟。」
趙王鼓瑟。
秦御史前、書曰、
「某年月日、秦王与趙王会飲、令趙王鼓瑟。」
藺相如前曰、
「趙王窃聞秦王善為秦声。
請奉盆缻秦王、以相娯楽。」
秦王怒不許。
於是、相如前進缻、因跪請秦王。
秦王不肯撃缻。
相如曰、
「五歩之内、相如請、得以頸血濺大王矣。」
左右欲刃相如。
相如張目叱之。
左右皆靡。
於是、秦王不懌、為一撃缻。
相如顧召趙御史、書曰、
「某年月日、秦王為趙王撃缻。」
秦之群臣曰、
「請以趙十五城為秦王寿。」
藺相如亦曰、
「請以秦之咸陽為趙王寿。」
秦王竟酒、終不能加勝於趙。
趙亦盛設兵以待秦。
秦不敢動。
(廉頗藺相如列伝)

<書き下し>

澠池(めんち)の会

秦趙を伐(う)ち、石城(せきじょう)を抜く。
明年、復攻趙、殺二萬人。
秦王使者をして趙王に告げしめ、
「王と好(よしみ)を為(な)し、西河の外の澠池に会せんと欲す。」と。
趙王秦を畏れ、行くこと毋(な)からんと欲す。
廉頗(れんぱ)・藺相如(りんそうじょ)計りて曰はく、
「王行かずんば、趙の弱くして且つ怯(けふ)なるを示すなり。」と。
趙王遂(つい)に行く。
相如従ふ。
廉頗送りて境に至り、王と訣(けつ)して曰はく、
「王の行、道里を度(はか)るに、会遇の礼畢(を)はりて還(かへ)るまで、三十日を過ぎざらん。
三十日にして還らずんば、則ち請ふ太子を立て王と為し、以て秦の望みを絶たん。」と。
王之を許す。
遂に秦王と澠池に会す。

秦王酒を飲み酣(たけなは)にして曰はく、
「寡人窃(ひそ)かに趙王音を好むと聞く。
請ふ瑟を奏せよ。」と。
趙王瑟を鼓す。
秦の御史前(すす)み、書して曰はく、
「某年月日、秦王趙王と会飲し、趙王をして瑟を鼓せしむ。」と。
藺相如前みて曰はく、
「趙王窃かに秦王善く秦声を為すと聞く。
請ふ盆缻(ぼんぶ)を秦王に奉じ、以て相(あ)ひ娯楽せん。」と。
秦王怒りて許さず。
是(ここ)に於いて、相如前みて缻を進め、因りて跪(ひざまづ)きて秦王に請ふ。
秦王缻を撃つことを肯(がへん)ぜず。
相如曰はく、
「五歩の内、相如請ふ、頸血を以て大王に濺(そそ)ぐことを得ん。」と。
左右相如を刃せんと欲す。
相如目を張りて之を叱(しつ)す。
左右皆靡(なび)く。
是(ここ)に於いて、秦王懌(よろこ)ばざるも、為(ため)に一たび缻を撃つ。
相如顧みて趙の御史を召し、書して曰はく、
「某年月日、秦王趙王の為に缻を撃つ。」と。
秦の群臣曰はく、
「請ふ趙の十五城を以て秦王の寿を為せ。」と。
藺相如も亦た曰はく、
「請ふ秦の咸陽(かんやう)を以て趙王の寿を為せ。」と。
秦王酒を竟(を)ふるまで、終(つひ)に勝ちを趙に加ふること能はず。
趙も亦盛んに兵を設け以て秦を待つ。
秦敢へて動かず。

<現代語訳>

澠池の会

秦は趙を攻め、石城を攻め落とした。
翌年、再び趙を攻め、二万人を殺した。
秦王は使者を送り趙王にこう告げさせた。
「(趙)王との親睦を深めるため澠池で会合を持ちたい。」
趙王は秦をおそれて行こうとしなかった。
廉頗と藺相如は相談して(趙王に)こう言った。
「王がお出かけになりませんと、趙が弱くしかも卑怯であることを示すことになります。」
(そこで)趙王はとうとう行くことにした。
相如は(趙王のお出ましに従い)お供をした。
廉頗も(趙王のお出ましを)お送りし国境に至ると、(趙王と)訣別してこう言った。
「(今回の)王のお出ましの旅程を計算してみますと、(秦王との)ご対面が終わって帰還なさるまで、三十日を過ぎることはないでしょう。
三十日たってご帰還なさらないときは、どうか太子を王位におつけし、秦の野望を絶たせてほしく思います。」
王はこれを許した。
そして秦王と澠池で会った。

秦王は酒を飲み、酒宴がたけなわになるとこう言った。
「私はひそかに趙王が音楽好きだと聞いております。
どうか瑟を演奏してもらいたい。」
趙王は瑟を弾いた。
秦の記録官が進み出てこう書いた。
「某年、月、日、秦王は趙王と会食し、趙王に瑟を演奏させた。」
(すると)藺相如は進み出てこう言った。
「趙王はひそかに秦王が秦の音楽に堪能だと聞いております。
どうか盆缻を秦王に捧げますので、お互いに楽しみあいたいと存じます。」
秦王は怒り、許さなかった。
そこで相如は進み出て缻を差し出し、ひざまづいて秦王にお願いした。
秦王は缻を打つことは承知しなかった。
相如は言った。
「私と大王との距離はわずか五歩でしかありません。どうか、私の首を切ったときに流れ出る血を大王に注がせてほしい。(=自分の身を犠牲にして秦王を殺害しようという強固な意志を表す言葉)」
秦王の側近たちは相如を刃にかけようとした。
相如は(側近たちを)目を張って叱りつけた。
彼らは皆たじろいだ。
そこで、秦王はしぶしぶ趙王のために缻を一回叩いた。
相如は振り返り趙の記録官を呼びこう書かせた。
「某年、月、日、秦王は趙王のために缻を打つ。」
秦の群臣は言った。
「趙の十五の城で献じて、秦王の長命を祝福してくれまいか。」
藺相如もこう言った。
「秦の咸陽(=秦の都)を献じて、趙王の長命を祝福してほしいものです。」
秦王は酒宴が終わるまで、ついに趙を屈服させることができなかった。
趙もまた軍隊を盛んにして、秦に備えた。
秦は(行動したくても)行動することができなかった。



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