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十八史略 「鶏鳴狗盗」 現代語訳

6月 19, 2014 by kanbunjuku // コメントは受け付けていません。

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訳:蓬田(よもぎた)修一

<現代語訳>

鶏鳴狗盗

宣王(せんおう)が亡くなり、湣王(びんおう)が即位した。
靖郭君(せいかくくん)の田嬰(でんえい)は、宣王の腹違いの弟である。
薛(せつ)に封ぜられた。
(彼には)文(ぶん)という子どもがいた。
(彼は)数千人の食客(しょっかく)を養っていた。
(彼の)名声は諸侯の間で有名であった。
孟嘗君(もうしょうくん)と号した。 
秦の昭王(しょうおう)は彼の賢いことを聞いて、そこでまず人質を斉に送り(孟嘗君との)会見を望んだ。
(孟嘗君が秦に)着くと、昭王は引き止めて、捕らえて孟嘗君を殺そうとした。
孟嘗君は、昭王のお気に入りの婦人のところへ人をやって助けてもらうよう頼んだ。
婦人はこう言った。
「あなたの持っている狐白裘(こはくきゅう=狐の脇の下にある白い毛で作った衣服)をいただけたら(助けて差し上げたい)と思います。」
(ところが、そもそも)孟嘗君は(狐白裘を)すでに昭王に献上してしまい、他に狐白裘を持ち合わせていない。
(困ったところ、孟嘗君と同行している)食客の中にコソ泥の上手な者がいた。
(彼は)秦の蔵に忍び込み、狐白裘を盗み出し婦人に献上した。
婦人は(孟嘗君のために)取りなして(孟嘗君は)許されることができた。 
すぐに馬で逃げ去り、姓名を変えて、夜半に函谷関(かんこくかん)に着いた。
関所の規則では、(夜が明けて)鶏が鳴いたそのときに、旅人を通すことになっていた。
(孟嘗君は)秦王が後になって(自分を許したことを)後悔し、自分を追ってくることを恐れた。
(困っていると、孟嘗君一行の)食客の中に鶏の鳴き声が上手な者がいた。
(彼が鶏の声をまねて鳴くと、周囲の)鶏は皆鳴き出した。
そこで(関所の役人は孟嘗君一行の)車を通した。
(関所を)出ると間もなく、思ったとおり追っ手がやってきたが、間に合わなかった。
孟嘗君は(斉に)帰ると秦を恨み、韓と魏の二国とともに秦を攻め、函谷関に入った。
秦は城を割譲して和睦した。 
孟嘗君は斉の宰相となった。
(しかし)ある人が孟嘗君のことを王に讒言(=おとしめるために悪く言うこと)した。
そこで(斉を)逃げ出した。
(十八史略)

<書き下し>

鶏鳴狗盗(けいめいくたう)

宣王(せんわう)卒(しゆつ)して湣王(びんわう)立つ。
靖郭君(せいくわくくん)田嬰(でんえい)は、宣王の庶弟(しよてい)なり。
薛(せつ)に封ぜらる。
子(こ)有り文(ぶん)と曰(い)ふ。
食客(しよくかく)数千人。
名声諸侯に聞(き)こゆ。
号(がう)して孟嘗君(まうしやうくん)と為(な)す。 
秦の昭王(せうわう)其の賢(けん)を聞き、乃(すなは)ち先(ま)づ質(ち)を斉に納(い)れて、以て見んことを求む。
至れば則ち止(とど)め、囚(とら)へて之を殺さんと欲す。
孟嘗君人をして昭王の幸姫(かうき)に抵(いた)つて解(と)かんことを求めしむ。
姫(き)曰く、
「願はくは君(きみ)の狐白裘(こはくきう)を得ん。」と。
蓋(けだ)し孟嘗君嘗(かつ)て以て昭王に献(けん)じ、他の裘(きう)無し。
客(かく)に能く狗盗(くたう)を為す者有り。
秦の蔵中(ざうちゆう)に入りて、裘を取り以て姫に献ず。
姫為(ため)に言(い)つて釈(ゆる)さるるを得たり。 
即ち馳(は)せ去り、姓名を変(へん)じて、夜半(やはん)函谷関(かんこくくわん)に至る。
関(くわん)の法(はふ)鶏(にはとり)鳴ひて方(まさ)に客(かく)を出(いだ)す。
秦王の後(のち)に悔(く)ひて之を追はんことを恐る。
客に能く鶏鳴(けいめい)を為(な)す者有り。
鶏(にはとり)尽(ことどと)く鳴く。
遂に伝(でん)を発す。
出でて食頃(しよくけい)にして、追ふ者果(はた)して至るも、及ばず。
孟嘗君帰つて秦を怨(うら)み、韓・魏と之を伐(う)ち、函谷関に入る。
秦城(しろ)を割(さ)ひて以て和す。 
孟嘗君斉に相(しやう)たり。
或(ある)ひと之を王に毀(そし)る。
乃ち出奔(しゆつぽん)す。
(十八史略)

<漢文>

鶏鳴狗盗

宣王卒湣王立。
靖郭君田嬰者、宣王之庶弟也。
封於薛。
有子曰文。
食客数千人。
名声聞於諸侯。
号為孟嘗君。 
秦昭王聞其賢、乃先納質於斉、以求見。
至則止、囚欲殺之。
孟嘗君使人抵昭王幸姫求解。
姫曰、
「願得君狐白裘。」
蓋孟嘗君嘗以献昭王、無他裘矣。
客有能為狗盗者。
入秦蔵中、取裘以献姫。
姫為言得釈。 
即馳去、変姓名、夜半至函谷関。
関法鶏鳴方出客。
恐秦王後悔追之。
客有能為鶏鳴者。
鶏尽鳴。
遂発伝。
出食頃、追者果至、而不及。
孟嘗君帰怨秦、与韓・魏伐之、入函谷関。
秦割城以和。 
孟嘗君相斉。
或毀之於王。
乃出奔。
(十八史略)



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