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柳宗元 「送薛存義之任序」 現代語訳 

7月 10, 2014 by kanbunjuku // コメントは受け付けていません。



訳:蓬田(よもぎた)修一

<現代語訳>

薛存義(せつそんぎ)が任地に赴く送別の序 
柳宗元

河東の薛存義が(任地へ)行こうとしている。
柳子(=私)は肉を俎に載せ、酒を大きな杯に満たし、(薛存義に)従ってついて行き、湘江のほとりで送別の席を設け、彼に食事をすすめた。
そして(彼に)告げてこう言った。
「あらゆる地方の官吏となる者について、あなたはその職務を知っていますか。
私が思うに、民衆のために働くであって、民衆を働かせるだけではないのです。
土地を耕して生活するすべての民衆は、収穫の十分の一を(税として)出して官吏を雇い、自分たちにおける平安(な生活)を司らせるのです。
(ところが)今、官吏としての俸禄を受け取りながら、官吏としての仕事を怠る者がおり、天下の官吏が皆そのようであります。
(しかも)どうしてただ職務を怠るだけであろうか。その上、追いかけるようにしてまた盗むのです(=民衆が治める税の中から盗み取るのです)。

もしひとりの男を家で雇い、あなたからの賃金を受け取りながら、あなたが銘じた仕事を怠り、しかもあなたの宝や器を盗んだならば、必ず非常に怒り、その男をやめさせて罰するでしょう。
思うに、今、天下においてはこれと似ていることが多いのです。
(それなのに)民衆が怒りを存分にぶつけ、(官吏を)やめさせ罰することがないのはどうしてでしょう。
(それは)権力が同じではないからです。
(しかし)権力は同じではなくでも、道理は同じです。
私たちの民衆をどうしたらいいでしょうか。
道理に通じている官吏がいれば、(罰を)恐れて(悪事をなすことを)はばからないでいられるでしょうか(きっと悪事をするのにはばかるでしょう)。

存義は二年間、零陵の仮の県令でありました。
(その間)朝早く起き夜遅くまで(政治のことを)考え、力を尽くしあれこれと心配し、訴訟は公平に、税は等しく(徴収)しました。
(こうした存義の政治により社会は)老人や年少の者に対しても偽りの心を抱き激しく憎むことはなかったのです。
あなたが虚しく俸禄を取らなかったことは明らかです。
(不正を働くことで民衆から怨みをかうことを)あなたが恐れてはばかっていたことを知っています。(あなたは道理を重んじる人であることは)明らかです。
私は身分が賤しく、しかも罪により辱めを受けていますから、朝廷で官吏の功績を調べ、降格や昇進を決める会議に参加できません。
あなたが行くにあたって、特にあなたをほめるのに酒と肉ともてなし、重ねてこの言葉を贈るのです。」
(唐宋八大家文読本)

<書き下し>

薛存義(せつそんぎ)の任(にん)に之(ゆ)くを送るの序 
柳宗元

河東(かとう)の薛存義将(まさ)に行かんとす。
柳子(りうし)肉を俎(そ)に載せ、酒を觴(さかづき)に崇(み)たし、追ひて之を江の滸(ほとり)に送り、之に飲食せしむ。
且つ告げて曰はく、
「凡(およ)そ土に吏たる者、若(なんぢ)其の職を知るか。
蓋(けだ)し民の役にして、以て民を役するのみに非ざるなり。
凡そ民の土に食する者は、其の什(じふ)の一を出(い)だして乎吏を傭(やと)ひ、平を我に司(つかさど)らしむるなり。
今、其の直(あたひ)を受けて、其の事を怠る者、天下皆然(しか)り。
豈(あ)に唯(た)だに之を怠るのみならんや、又従ひて之を盗む。

向使(も)し一夫を家に傭ひ、若(なんぢ)の直を受けて、若の事を怠り、又若の貨器を盗まば、則(すなは)ち必ず甚だ怒りて之を黜罰(ちゆうばつ)せん。
以(おも)ふに今天下此(これ)に類するもの多し。
民敢(あ)へて其の怒りを肆(ほしいまま)にして黜罰すること莫(な)きは、何ぞや。
勢ひ同からざればなり。
勢ひ同からざるも理は同じ。
吾が民を如何(いかん)せん。
理に達する者有らば、恐れて畏れざるを得んや。

存義仮に零陵に令たること二年。
蚤(つと)に作(お)き夜に思ひ、力を勤めて心を労し、訟は平らかに、賦は均(ひと)し。
老弱にも詐(いつは)りを懐(いだ)き暴憎すること無し。
其の虚(むな)しく直を取らずと為すや、的(あき)らかなり。
其の恐れて畏るることを知るや、審(つまび)らかなり。
吾(われ)賤(いや)しくして且つ辱められ、考績幽明の説に与(あづ)かるを得ず。
其の往(ゆ)くに於(お)いて、故(ことさら)に賞するに酒肉を以てして、之に重ぬるに辞を以てす。」と。
(唐宋八大家文読本)

<漢文>

送薛存義之任序 
柳宗元

河東薛存義将行。
柳子載肉於俎、崇酒於觴、追而送之江滸、飲食之。
且告曰、
「凡吏於土者、若知其職乎。
蓋民之役、非以役民而已也。
凡民之食於土者、出其什一傭乎吏、使司平於我也。
今、受其直、怠其事者、天下皆然。
豈唯怠之、又従而盗之。

向使傭一夫於家、受若直、怠若事、又盗若貨器、則必甚怒而黜罰之矣。
以今天下多類此。
而民莫敢肆其怒而黜罰、何哉。
勢不同也。
勢不同而理同。
如吾民何。
有達於理者、得不恐而畏乎。

存義仮令零陵二年矣。
蚤作而夜思、勤力而労心、訟者平、賦者均。
老弱無懐詐暴憎。
其為不虚取直也、的矣。
其知恐而畏也、審矣。
吾賤且辱、不得与考績幽明之説。
於其往也、故賞以酒肉、而重之以辞。」
(唐宋八大家文読本)



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