十八史略 「創業守成」 現代語訳
訳:蓬田(よもぎた)修一
<漢文>
創業守成
唐太宗嘗問侍臣、
「創業守成孰難。」
玄齢曰、
「草昧之初、群雄並起、角力而後臣之。
創業難矣。」
魏徴曰、
「自古、帝王莫不得之於艱難、失之於安逸。
守成難矣。」
上曰、
「玄齢与吾共取天下、出百死得一生。
故知創業之難。
徴与吾共安天下、常恐驕奢生於富貴、禍乱生於所忽。
故知守成之難。
然創業之難、往矣。
守成之難、方与諸公慎之。」
(十八史略 唐 太宗)
<書き下し>
創業守成
唐太宗嘗(かつ)て侍臣に問ふ、
「創業と守成と孰(いづ)れか難き。」と。
玄齢(げんれい)曰はく、
「草昧(そうまい)の初め、群雄並び起こり、力を角(かく)して而る後に之を臣とす。
創業難し。」と。
魏徴(ぎちよう)曰はく、
「古(いにしへ)より、帝王、之(これ)を艱難(かんなん)に得て之を安逸(あんいつ)に失はざるは莫(な)し。
守成難し。」と。
上(しやう)曰はく、
「玄齢は吾と共に天下を取り、百死を出でて一生(いつせい)を得たり。
故に創業の難きを知る。
徴は吾と共に天下を安んじ、常に驕奢(きうしや)の富貴より生じ、禍乱(くわらん)は忽(ゆるが)せにする所より生ずるを恐る。
故に守成の難きを知る。
然れども創業の難きは往(ゆ)けり。
守成の難きは、方(まさ)に諸公と之を慎(つつし)まん。」と。
<現代語訳>
創業守成
唐の太宗がある時、近臣に尋ねた。
「国家の大業を始めるのと、すでにある大業を守って失わないようにするのとでは、どちらが難しいだろうか。」
玄齢が言った。
「天下が乱れ世の秩序が整わないときは、多くの英雄たちが力を競って勝敗を競い、勝った方が負けた方を臣下とします。創業のほうが難しいかと存じます。」
すると魏徴はこう言った。
「昔から帝王たちは天下を苦難の中から得て、安楽に流れて怠けることで失っております。
ですから、守成のほうが難しいと存じます。」
(最後に)太宗はこう言った。
「玄齢は自分といっしょに天下を取り、何度も死ぬような危険な目にあいながらも、かろうじて生き延びることができた。
だから創業の難しさを知っている。
また、徴は自分といっしょに天下を治め、心がおごってぜいたくになることは富貴から生まれ、世のわざわいや乱れは物事をおろそかにするところから生まれることを常に恐れている。
だから守成の難しいことを知っている。
しかし、創業の困難は過ぎ去った。
守成の困難は今から諸侯とともにおろそかにしないようにしたいものである。」