十八史略 「鶏口牛後」 現代語訳
訳:蓬田(よもぎた)修一
<漢文>
鶏口牛後
秦人恐喝諸侯、求割地。
有洛陽人蘇秦。
游説秦恵王、不用。
乃往説燕文侯、与趙従親。
燕資之、以至趙。説粛侯曰、
「諸侯之卒、十倍於秦。
并力西向、秦必破矣。
為大王計、莫若六国 従親以擯秦。」
粛侯乃資之、以約諸侯。
蘇秦以鄙諺説諸侯曰、
「寧為鶏口、無為牛後。」
於是六国従合。
(十八史略)
<書き下し>
鶏口牛後
秦人諸侯を恐喝して、地を割かんことを求む。
洛陽の人蘇秦なるもの有り。
秦の恵王に游説して、用ゐられず。
乃ち往きて燕の文侯に説き、趙と従親せしむ。
燕之に資し以て趙に至らしむ。
粛侯に説きて曰はく、
「諸侯の卒、秦に十倍す。
力を并せて西に向かはば、秦必ず破れん。
大王の為に計るに、六国従親して以て秦を擯(しりぞ)くるに若(し)くは莫(な)し。」と。
粛侯乃ち之に資して、以つて諸侯を約せしむ。
蘇秦鄙諺(ひげん)を以つて諸侯に説きて曰はく、
「寧ろ鶏口と為るとも、牛後と為ること無かれ。」と。
是に於いて六国従合す。
<現代語訳>
秦王は、(周囲の)諸侯を脅して、領土を秦に分け与えるよう求めていた。
ときに、洛陽に蘇秦という者がいた。
彼は秦の恵王に説いてまわったが、(彼の考えは)取り上げられなかった。
そこで、蘇秦は燕に行き、文侯を説得して、趙と南北に同盟を結ばせようとした。
燕は蘇秦に(遊説のための)資金を与え、趙に行かせた。
蘇秦が趙の粛侯に説いて言うには、
「諸侯の兵力を合わせれば、秦の十倍になります。
力を合わせて西(の方角にある秦)に対抗したなら、秦は必ず敗れるでしょう。
大王のために計略を立てるなら、六国(燕、趙、斉、魏、韓、楚)が南北に同盟し、秦をのけものにするという計画に勝るものはありません。」
(そこで)粛侯は蘇秦に資金を渡し、諸侯に同盟を約束させた。
蘇秦は世間で言われていることわざで諸侯を説得した。
「鶏口(にわとりのくちばし)となっても、牛後(牛の尻)になってはいけない。」
そうして、六つの国は南北に同盟を結ぶことになった。