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史記「刎頸之交」 現代語訳

5月 22, 2014 by kanbunjuku // コメントは受け付けていません。

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訳:蓬田(よもぎた)修一

<漢文>

史記 
刎頸之交

既罷帰国。
以相如功大、拝為上卿。
位在廉頗之右。
廉頗曰、
「我為趙将、有攻城野戦之大功。
而藺相如徒以口舌為労、而位居我上。
且相如素賤人。
吾羞、不忍為之下。」
宣言曰、
「我見相如、必辱之。」
相如聞、不肯与会。
相如毎朝時、常称病、不欲与廉頗争列。
已而相如出望見廉頗。
相如引車避匿。

於是、舎人相与諫曰、
「臣所以去親戚而事君者、徒慕君之高義也。
今君与廉頗同列、廉君宣悪言、而君畏匿之、恐懼殊甚。
且庸人尚羞之。
況於将相乎。
臣等不肖。
請辞去。」
藺相如固止之曰、
「公之視廉将軍、孰与秦王。」
曰、
「不若也。」
相如曰、
「夫以秦王之威、而相如廷叱之、辱其群臣。
相如雖駑、独畏廉将軍哉。
顧吾念之、彊秦之所以不敢加兵於趙者、徒以吾両人在也。
今両虎共闘、其勢不俱生。
吾所以為此者、以先国家之急、而後私讎也。」

廉頗聞之、肉袒負荊、因賓客、至藺相如門謝罪曰、
「鄙賤之人、不知将軍寛之至此也。」
卒相与驩為刎頸之交。
(廉頗藺相如列伝)

<書き下し>

刎頸(ふんけい)の交はり

既に罷(や)めて国に帰る。
相如の功大なるを以て、拝して上卿(じやうけい)と為(な)す。
位は廉頗の右に在り。
廉頗曰はく、
「我趙(てふ)の将と為り、攻城野戦の大功有り。
而(しか)るに藺相如は徒(た)だ口舌を以て労を為し、而(しかう)して位我が上に居(を)り。
且つ相如は素(もと)賤人(せんじん)なり。
吾(われ)羞(は)ぢて、之が下為(た)るに忍びず。」と。
宣言して曰はく、
「我相如を見ば、必ず之を辱めん。」と。
相如聞きて、与(とも)に会ふことを肯(がへん)ぜず。
相如朝する時毎(ごと)に、常に病と称し、廉頗と列を争ふことを欲せず。
已(すで)にして相如出でて廉頗を望見す。
相如車を引きて避け匿(かく)る。

是(ここ)に於ひて、舎人相(あひ)与(とも)に諫(いさ)めて曰はく、
「臣の親戚を去りて君に事(つか)ふる所以は、徒だ君の高義を慕へばなり。
今君廉頗と列を同じくし、廉君悪言を宣(の)ぶれば、君畏れて之に匿れ、恐懼(きようく)すること殊(こと)に甚だし。
且つ庸人(ようじん)すら尚(な)ほ之を羞づ。
況(いは)んや将相に於いてをや。
臣等(ら)不肖なり。
請ふ辞じ去らん。」と。
藺相如固く之を止(とど)めて曰はく、
「公の廉将軍を視(み)ること、秦王と孰与(いづ)れぞ。」と。
曰はく、
「若(し)かざるなり。」と。
相如曰はく、
「夫(そ)れ秦王の威を以てしても、相如之を廷叱して、其の群臣を辱む。
相如駑(ど)なりと雖(いへど)も、独り廉将軍を畏れんや。
顧(た)だ吾之を念(おも)ふに、彊秦(きやうしん)の敢へて兵を趙に加へざる所以の者は、徒だ吾(わ)が両人の在るを以てなり。
今両虎共に闘はば、其の勢ひ俱(とも)には生きざらん。
吾の此(これ)を為す所以の者は、国家の急を先にして、私讎(ししう)を後にするを以てなり。」と。

廉頗之を聞き、肉袒(にくたん)して荊(けい)を負ひ、賓客に因(よ)りて、藺相如の門に至り罪を謝して曰はく、
「鄙賤の人、将軍の寛なることの此(ここ)に至るを知らざりしなり。」と。
卒(つひ)に相与に驩(よろこ)びて刎頸の交はりを為す。

<現代語訳>

刎頸の交わり

(趙王は秦王との)会合を終えて趙に帰国した。
(趙王は)相如の功績が大きかったことから、相如を上卿に任じた。
(相如の)位は廉頗の上となった。
廉頗は言った。
「わしは趙の将軍となり、攻城野戦の大功がある。
しかしながら、藺相如はただ口先の働きだけで、位はわしの上にある。
しかも、相如はもともと卑賤の出身である。
わしは恥ずかしくて、相如の下にいるのに我慢がならない。」
(そして)宣言してこう言った。
「わしは相如に会ったなら、きっと彼を恥をかかせてやる。」
相如はこれを聞いて、(廉頗とは)できるだけ会わないようにした。
相如は朝廷に出仕すべきときはいつも、病気であると称して(出仕せず)、廉頗と序列を争うことを望まなかった。
その後、相如は外出して廉頗をはるか遠くに見かけた。
(すると)相如は車を引いて避けて隠れた。

そこで(相如に)仕える人たちはみな諫めて言った。
「私たちが親戚のもとを去ってあなた様にお仕えしている理由は、ただ、あなた様の高義の気持ちを慕っているからです。
今、(あなた様は)廉頗将軍と序列を同じくしておりますが、廉君(=廉頗将軍)が(あなた様に対する)悪口を言うと、あなた様は恐れて逃げ隠れ、恐れかしこまること、ことさらに甚だしいものがあります。
しかも、平凡な人ですらこうしたことは恥じるものです。
ましてや、将軍や大臣であるならなおさらです。
私どもは愚かです(ので、あなた様のお考えが分かりません。これ以上、お仕えすることはできませんので)
どうかお暇をいただきたいと思います。」
藺相如は固く止めて言った。
「君たちは廉将軍と秦王と、どちらを恐れているか。」
舎人「(秦王には)及びません。」
相如「そもそも、秦王の威厳をもってしても、相如(=私)は朝廷で叱りつけ、その群臣を辱めたのである。
相如(=私)はおろかではあるが、どうして廉将軍を恐れようか(いや恐れてはいないのである)。
私がこうしたこと(=廉将軍から逃げ隠れすること)をする理由は、国家の危機を先にして、個人的な恨みは後にしているからなのだ。」

廉頗はこのことを聞くと、肩を出して茨のむちを背負い(=罪人の姿になって、謝罪の意を表す)、(藺相如のもとに)客人として待遇されている人に取り次ぎを頼み、藺相如の(屋敷の)門に行くと、(自分のこれまでの)罪を陳謝して言った。
「賤しい人間である私は、藺将軍がこれほどまでに寛大であることを知りませんでした。」
こうして、(藺相如と廉頗は)お互い友人となり、刎頸の交はり(=お互いに首を斬られても後悔しない仲)を結んだ。





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