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韓愈 「雑説」 現代語訳

7月 7, 2014 by kanbunjuku // コメントは受け付けていません。

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訳:蓬田(よもぎた)修一

<現代語訳>

雑説(ざっせつ)
韓愈

世の中、伯楽(はくらく=馬をよく見分けられる人物)がいて(はじめて)、千里を走る名馬がいるのである(名馬が見い出されるのである)。
千里を走る能力のある馬はいつでもいるけれど、伯楽はいつもいるという訳ではない。
それ故に、名馬がいたとしても、ただ召使いたちの手に辱められて、かいば桶とうまやの敷板の間に、他の馬たちと並んで死んでしまい、「千里を走る名馬」と称えられることもない。

千里を走る馬は、一食に一石のもみを食べ尽くすこともある。
馬を養う者は、自分の馬が千里を走る名馬と知って養っているのではない。
この馬に千里の能力があったとしても、食を十分に得なければ力が足らず、才能の立派さが外には現れない。
その上、普通の馬と同じようにありたいと望んでも、それもできない。
どうしてその馬に千里を走ることを求めることができようか(求めることなどはできはしない)。

馬をむち打つのに(=御するのに)、それにふさわしい方法でやるのではなく、馬を養うのに、(十分に食べさせて)馬の才能を発揮させることができない。
(馬は不満を訴えて)鳴いても、(伯楽でない人は)馬の気持ちを理解することができない。
むちを手に取り、馬に向かってこう言う。
「天下に良馬なし。」
ああ、本当に馬がないのであろうか。
(それとも、本当は馬はいても)その馬の善し悪しを見分けることができないのであろうか。
(古文真宝)

<書き下し>

雑説(ざつせつ)
韓愈

世に伯楽(はくらく)有りて、然(しか)る後(のち)に千里の馬有り。
千里の馬は常に有れども、伯楽は常には有らず。
故に名馬有りと雖(いへど)も、秖(ただ)奴隷人の手に辱(はづかし)められ、槽櫪(さうれき)の間(あいだ)に駢死(へんし)し、千里を以て称せられざるなり。

馬の千里なる者は、一食に或(あるひ)は粟(ぞく)一石(いちせき)を尽くす。
馬を食(やしな)ふ者、其の能く千里なるを知りて食はざるなり。
是(こ)の馬に千里の能有りと雖も、食飽かざれば、力足らず、才の美外(そと)に見(あらは)れず。
且(か)つ常の馬と等しからんと欲するも、得べからず。
安(いづく)んぞ其の能く千里なるを求めんや。

之を策(むちう)つに其の道を以てせず、之を食ふに其の材を尽くさしむる能はず。
之を鳴けども其の意に通づる能はず。
策(むち)を執(と)つて之に臨んで曰はく、
「天下に良馬無し。」と。
嗚呼(ああ)、其れ真(しん)に馬無きか。
其れ真に馬を知らざるか。
(古文真宝)

<漢文>

雑説
韓愈

世有伯楽、然後有千里馬。
千里馬常有、而伯楽不常有。
故雖有名馬、秖辱於奴隷人之手、駢死於槽櫪之間、不以千里称也。

馬之千里者、一食或尽粟一石。
食馬者、不知其能千里而食也。
是馬也雖有千里之能、食不飽、力不足、才美不外見。
且欲与常馬等、不可得。
安求其能千里也。

策之不以其道、食之不能尽其材。
鳴之不能通其意。
執策而臨之曰、
「天下無良馬。」
嗚呼、其真無馬邪。
其真不知馬也。
(古文真宝)



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